創業250年の歴史を持つ大西園製茶工場。
この茶園の14代目で伝統技法「手揉み茶」の高い技術を持つ中島毅さんは、
「全国手揉み茶品評会」で8度の日本一を受賞し、「永世茶聖」の称号を授与された手揉み茶の第一人者です。
今回は中島さんが生み出す貴重な「手揉み茶」の魅力に迫ります。
古い歴史を持つ狭山茶と熟練の技から生まれる
中島さんの“手揉み茶”
武蔵河越茶から始まる狭山茶の歴史
遣唐使によって中国から日本に伝えられたと言われる茶文化。
南北朝時代の書物『異制庭訓往来』にはすでに「武蔵河越茶」という名称が挙げられており、旧河越領(現在の埼玉県西部地域)は、京都や駿河(現在の静岡県)に次ぐ茶の産地として知られていたようです。戦国時代に入ると河越茶の栽培は一時衰退しましたが、江戸時代に再び生産されるようになりました。
ちょうど同時期に、お茶の歴史を変える出来事も起こります。1738年に宇治の永谷宗円によって今に伝わる「煎茶製法」が確立されたのです。
それまでは直接茶葉をすりつぶしたり、茶葉を煮出して飲んだりするのが一般的でしたが、この製法がお茶の飲み方を変えました。
1750〜1780年頃になると、吉川温恭、村野盛政らの尽力によって狭山茶業が興り、煎茶製法を取り入れた「蒸し製煎茶」が生産されはじめると、宇治茶に劣らない品質を持つお茶として狭山茶が知られるようになりました。
たくさんのお茶を消費する江戸が近かったことで生産量も増え、その後、武蔵国高麗郡(現在の日高市)の高林謙三が製茶の機械化への道を拓いた「茶葉粗揉機」を作ると、それまでの手揉みの製法よりも増産が進み、明治時代には海外へ輸出もするようになりました。
狭山茶の産地では古くから、「色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす」と歌われるように「日本三大茶」のひとつとして今でも知られています。
狭山茶ならではの特徴
他の産地では3番茶、4番茶と摘みますが、狭山茶の産地では2番茶までしか茶葉を摘まないことで、冬の間にお茶の木を十分に休ませることができ、木が栄養分を蓄えてくれます。そのため厚くてよい茶葉がとれ、特徴であるコクのあるお茶が生まれます。
また、狭山茶ではお茶の加工のときに「狭山火入れ」という工程を取り入れたことにより、濃厚な香りや甘みを引き出しています。
さらに、狭山の産地では昔から各茶園でお茶の栽培から製造、販売までを一貫して行うことが多く、そのためそれぞれの茶園によって異なるお茶の味を楽しめます。
そんな狭山茶の産地として知られ、県内で一番の出荷量を誇る埼玉県入間市に中島さんの茶園はあります。
手揉み茶とはどんなお茶?
手揉み茶は、機械を使わずに人の手だけで作り上げる貴重なお茶です。
和紙を貼った「焙炉」と呼ばれる台を使い、80度ほどの熱を加え、台の上で茶葉を手で振るい、転がし、撚(よ)り、揉み込む作業を約8時間、丹念に続けることでできあがります。
中島さんによると、手揉み茶を作るときには、常に茶葉と向き合い、休むことなく作業をすることから、お茶ができあがる頃には疲労もピークに達するそうです。
そのようにして丹精込めて完成した手揉み茶の茶葉はまるで松の葉のように細長く、美しい光沢があり、芸術品と言っても過言ではないもの。お茶を口に含むとうまみと甘味が口の中いっぱいに広がり、柔らかな余韻が残る至極の一品です。お茶の水色(すいしょく)というと若草色をしているイメージですが、手揉み茶の色は薄く透明に近い色です。
お茶は二煎、三煎と味わうことができ、また、最後には茶がらを丸ごと食べることができます。ぜひ一度、手揉み茶の味を楽しんでみてください。
中島さんに聞きました!
手揉み茶の魅力と永世茶聖としての目標とは
手揉み茶の魅力と永世茶聖としての目標とは
手揉み茶をやってみようと思ったきっかけは?
高校を卒業して静岡の試験場で研修生としてお茶について学んでいるときに、初めて手揉み茶を見る機会がありました。
そのときの衝撃が大きく、自分でもこういうお茶を作ってみたいと思ったことがきっかけです。
また、手揉み茶で日本一を取りたいと思うようにもなりました。
手揉み茶の魅力を教えてください。
手揉み茶を飲んだ人からは、「これまでに飲んだことがない味」 「まるで出汁のよう」といった声をいただきます。
こういった声にもあるように、独特の穏やかな味と風味は手揉みでなければ出せないものです。
また、光沢のある美しい色も機械製造したお茶にはないものだといえます。
さらに、一枚の葉をまるで松の葉のように細長く仕上げた形状。
これも手でなければできないものなのです。
作り手としては、長い時間に渡ってお茶と向き合い、その状態を見ながら手捌きを変えて作り上げることから、お茶ができあがったときの達成感もまたひとしおです。
これからどのようなことにチャレンジされたいですか?
日本一を取り、「永世茶聖」の称号をいただいても、手揉み茶作りは、この先もずっと勉強だと思っています。
自分の技術を高めていくことはもちろんですが、それに加えて技術を次の世代へ伝えていくことも大切だと考えます。
現在も行っていますが、今後もやる気のある若い人たちに私の持つ技術を教えていけたらと思っています。
狭山茶が楽しめるお店
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