美しい自然に囲まれた
埼玉県・小鹿野町。
小鹿野町の人里離れた場所にあって、川のせせらぎと虫の音が聞こえる中にひっそりと佇んでいるのは、創業から1年目を迎えるディアレットフィールド醸造所です。
ここで手作業で丁寧に造られている黄金色のお酒が、蜂蜜を発酵させて造る蜂蜜酒(ミード)です。
グラスに注ぐと、華やかな蜂蜜の香りが豊かに広がり、口に含むとさわやかな甘みを味わえる歴史あるお酒が今回の主役。
蜂蜜酒に魅せられ、家族と醸造所を開いた工藤エレナさんに、蜂蜜酒の魅力と小鹿野町でのお酒造りについてのお話を伺いました。
甘い蜂蜜から生まれる
その味と魅力とは?
その味と魅力とは?
日本では聞きなれない「蜂蜜酒」。今回初めて耳にする人も多いのではないでしょうか。しかし、この蜂蜜酒の歴史はワインやビールよりも古いとされ、一説によると1万4千年前に人類が初めて出会ったお酒とも言われています。
いにしえから伝わる蜂蜜酒は、古代ギリシアでは神々のお酒とされ、古い物語などにも登場します。そしてギリシアのほかにも、北欧、インド、南米とあらゆる地域で飲まれてきました。そして私たちがよく知る言葉、ハネムーン(新婚旅行)の語源にもなっています。「Honeymoon(蜜月)」は古代ゲルマンの人たちの風習で、結婚してからひと月の間、新婦が蜂蜜酒を作り、新郎と一緒に飲むと子宝に恵まれるというものです。
神秘とロマンを感じる蜂蜜酒ですが、原料はとてもシンプルです。蜂蜜と水、そして酵母だけを使い発酵させて造ります。造り方がワインと似ていることから、“ハニーワイン”と呼ばれることもあります。できあがった蜂蜜酒のアルコール度数は10〜12度前後が多く、甘い香りで口当たりもよいことから飲みやすいと感じる人も多いそうです。
一方、熟成期間を長くするとアルコール度数が高くなり、また使用する蜂蜜の種類によって香りや味わいも変わります。近年、世界的に蜂蜜酒の魅力が再認識され始めています。日本ではまだ聞きなれないお酒ですが、これを機に蜂蜜酒を飲み、お気に入りの味を見つけてみてはいかがでしょう。
※一般社団法人日本ミード協会HP 参照 https://japan-mead.or.jp/mead/
蜂蜜酒の造り方
蜂蜜酒の造り方
蜂蜜と水と酵母で造る蜂蜜酒。
ディアレットフィールド醸造所の工藤エレナさんに、
蜂蜜酒ができるまでの流れを教えてもらいました。
原材料は蜂蜜・水・酵母
蜂蜜酒の原材料は蜂蜜と水と酵母です。600Lの容量のタンクに200〜250kgの蜂蜜を入れて水で希釈し、酵母を入れます。酵母は糖分を食べてアルコールを作る生き物。ワインはワイン用、ビールにはビール用とそれぞれ使用する酵母があります。ディアレットフィールド醸造所では、日本酒の酒蔵の杜氏にお酒造りを教えてもらったことから日本酒用の酵母を使っています。
時間をかけて発酵させる
原料を合わせたら低温でゆっくりと1か月くらいかけて発酵させます。発酵が進むと濁り酒になります。
濁り酒を濾過する
できあがった濁り酒の澱(おり)を濾過します。濾過して濁りがとれると、きれいな黄金色の蜂蜜酒になります。
加熱処理とビン詰めをして完成
「火入れ」という加熱処理を行い、酵母の活動を止めます。火入れをしたらビン詰めの作業をして2ヶ月〜半年ほど貯蔵し、飲み頃になったものを順次出荷します。できあがった蜂蜜酒のアルコール度数は10度。甘めの白ワインのような味わいに加え、蜂蜜の香りが広がります。蜂蜜は腐敗に強いため、冬だけ仕込む日本酒とは違い、年間を通して醸造しています。
※お酒の醸造には製造免許が必要です。
無許可で製造した場合、酒税法違反になります。
工藤エレナさん×蜂蜜酒×小鹿野町
東京都から小鹿野町に移住して蜂蜜酒造りをする工藤エレナさん。
小鹿野町を選んだ理由や蜂蜜酒を造るきっかけ、これから蜂蜜酒造りをするうえでのビジョンについて伺いました。
蜂蜜酒との出会いは?
子どもの頃に父の仕事の関係でロシア(旧ソ連)から会津に住むことになりました。大のお酒好きで成人してからはビールやワイン、シードルなどさまざまなお酒を楽しんできました。その中で10年ほど前、故郷の会津の酒蔵で造る蜂蜜酒「会津ミード」に出会いました。
蜂蜜酒のことは知ってはいましたが、“蜂蜜のお酒はただ甘いだけ”と思っていました。しかし、飲んでみるとスッキリとした甘みと、味わったことのないおいしさに衝撃を受けました。大学で日本酒の輸出などの勉強をする中、自分でお酒造りをしたいと考え、ずっとどんなお酒を造ろうかと迷っていたのですが、蜂蜜酒を飲んで気持ちが固まりました。まだ日本であまり知られていないところにもおもしろみを感じ、このお酒を広めていきたいと思いました。
蜂蜜酒を造る場所としてなぜ、埼玉県の小鹿野町を選んだのでしょう?
埼玉県に移住前は東京都に住んでいました。6年前に結婚し、本格的に蔵を持ちたいと夫と場所探しを始め、2人で最初に思いついた場所が酒処の秩父でした。秩父には日本酒の他に、ワイン、ウイスキー、ビールなどもあります。名水エリアのここで蜂蜜酒を造ってみたい!と思ったのが理由でした。
また、秩父は都内から電車1本で訪れることができる好立地。知名度の高さもポイントになりました。そして大学の恩師に相談すると小鹿野町を勧められたのです。お酒造りには原料が大切ですが、小鹿野ではおいしい百花蜜がたくさん採れ、良い水もあります。
そして、人が温かく、役場の方たちに移住して蔵を持ちたいと話をすると、親身に相談にのってくれました。こういったことから小鹿野町に移住しました。
これから蜂蜜酒をどのように広げていきたいですか?
まずは地酒として根づかせたいと思っています。小鹿野は小鹿野春まつりや鉄砲まつりなどお祭りが有名な地。お祭りを見にきた人にも飲んでもらえるとうれしいです。
そして、「小鹿野・秩父のお土産でこんなにおいしいものがある」と言ってもらえるようになればいいですね。観光にきた人に“秩父土産に蜂蜜酒を買おう”と思ってもらえるようにPRしていきたいと思います。
その後は国内で認知され、“蜂蜜酒を飲むならディアレットフィールド醸造所のもの”と思ってもらえるように広めていきたいです。
また、ブライダルでの需要が増えるといいなと思っています。結婚式に蜂蜜酒で乾杯しようとか、結婚する人に蜂蜜酒を送ろうとか、そういった文化が生まれるとおもしろいですね。
今年初めて養蜂を始めて、そこで採れた蜂蜜で仕込んだ新酒が完成しました。
ハーブ園も作っているので、これからは自家栽培の原料でお酒を造りたいと思っています。
蜂蜜酒の楽しみ方を教えてください。
蜂蜜酒は楽しみ方のバリエーションが豊富なお酒です。蜂蜜の種類によって味が変わるので、そのまま飲んでも味の違いが楽しめます。白ワインのような風味なので、サーモンや生牡蠣と一緒に味わうのもおすすめですし、特にチーズとの相性は抜群!また、秩父の鹿肉を使ったジビエ料理など、肉料理にもピッタリです。
食後のデザートに取り入れるのもおすすめ!アイスにかけたり、紅茶に入れて香りを楽しんだり、凍らせてシャーベットにしていただいてもおいしいですよ。
小鹿野町ってこんなところ
山々に囲まれた盆地の小鹿野町。
その歴史は古く、平安時代の「和名抄」にある「巨香郷(こおかのごう)」が小鹿野の始まりと言われています。日本百名山の両神山や名水の毘沙門水、ダリア園など豊かな自然に恵まれており、小鹿野春まつりや歌舞伎も有名です。町の人たちは移住してくる人たちにも温かく、子育てのしやすい町でもあります。
小鹿野町観光協会 https://kanko-ogano.jp